映画興行市場の動向

 本稿は、(株)ユニワールド発行の月刊FDI 2015年9月号に連載した記事を、WEB閲覧用に筆者が再編集したものである。

  デジタルルックラボ 川上 一郎 

 今月号では、日本の映画興行市場の現状と急成長を続けてきたChina 映画興行市場の急減速などの話題を交えて映画興行市場の動向を紹介していく。
 日本の映画制作会社四社(松竹・東宝・東映・KADOKAWA)により構成されている一般社団法人日本映画制作者連盟が毎年発表している全国映画概況の2014 年版と全国スクリーン数の集計結果を表1 に示している。2014 年12 月末の全国スクリーン数は3,364 スクリーンであり、内デジタルスクリーンは3,262 スクリーンとなり97%のデジタル化進捗率となった。フィルム映写機によるデジタル非対応のスクリーンは全国に102 スクリーンを残すのみとなっている。3D 上映対応スクリーンは1,106 スクリーンであり、3D 化率は32.9%である。また、スクリーン数でのシネコン市場占有率は86.6%となっている。昨年末での総人口は127,7298(千人)であることから、1 スクリーン当たりの人口は37.8(千人)となる。
表1 日映連統計全国スクリーン数(2014年12月末現在)
  スクリーン構成 デジタル 3D 人口    〈1,000人) スクリーン平均人口 3D   平均人口 非デジタル デジタル化率 3D比率 シネコンシェア(スクリーン数)
総数 一般館 シネコン
全国  3,364 453 2,911 3,262 1,106 127,298 37.8 115.1 102 97.0% 32.9% 86.5%
東京  335 91 244 323 121 13,300 39.7 109.9 12 96.4% 36.1% 72.8%
神奈川  218 14 204 213 74 9,079 41.6 122.7 5 97.7% 33.9% 93.6%
千葉  199 6 193 198 65 6,192 31.1 95.3 1 99.5% 32.7% 97.0%
埼玉  200 5 195 200 65 7,222 36.1 111.1 0 100.0% 32.5% 97.5%
群馬  62 4 58 61 18 1,984 32.0 110.2 1 98.4% 29.0% 93.5%
栃木  57 5 52 56 16 1,986 34.8 124.1 1 98.2% 28.1% 91.2%
茨城  91 7 84 86 28 2,931 32.2 104.7 5 94.5% 30.8% 92.3%
福島  26 12 14 26 10 1,946 74.8 194.6 0 100.0% 38.5% 53.8%
宮城  64 8 56 62 20 2,328 36.4 116.4 2 96.9% 31.3% 87.5%
岩手  25 11 14 25 10 1,295 51.8 129.5 0 100.0% 40.0% 56.0%
青森  44 6 38 41 18 1,335 30.3 74.2 3 93.2% 40.9% 86.4%
秋田  21 3 18 19 6 1,050 50.0 175.0 2 90.5% 28.6% 85.7%
山形  56 4 52 55 20 1,141 20.4 57.1 1 98.2% 35.7% 92.9%
新潟  63 2 61 63 23 2,330 37.0 101.3 0 100.0% 36.5% 96.8%
長野  65 20 45 59 22 2,122 32.6 96.5 6 90.8% 33.8% 69.2%
山梨  14 5 9 13 3 847 60.5 282.3 1 92.9% 21.4% 64.3%
静岡  98 7 91 94 34 3,723 38.0 109.5 4 95.9% 34.7% 92.9%
愛知  258 21 237 250 84 7,443 28.8 88.6 8 96.9% 32.6% 91.9%
岐阜  56 6 50 53 17 2,051 36.6 120.6 3 94.6% 30.4% 89.3%
富山  23 0 23 23 8 1,076 46.8 134.5 0 100.0% 34.8% 100.0%
石川  54 2 52 53 18 1,159 21.5 64.4 1 98.1% 33.3% 96.3%
福井  31 14 17 30 14 795 25.6 56.8 1 96.8% 45.2% 54.8%
三重  58 8 50 55 18 1,833 31.6 101.8 3 94.8% 31.0% 86.2%
大阪  204 22 182 194 62 8,849 43.4 142.7 10 95.1% 30.4% 89.2%
京都  75 11 64 73 22 2,617 34.9 119.0 2 97.3% 29.3% 85.3%
兵庫  117 37 80 113 39 5,558 47.5 142.5 4 96.6% 33.3% 68.4%
滋賀  38 4 34 38 15 1,416 37.3 94.4 0 100.0% 39.5% 89.5%
奈良  25 0 25 25 10 1,383 55.3 138.3 0 100.0% 40.0% 100.0%
和歌山  30 10 20 30 8 979 32.6 122.4 0 100.0% 26.7% 66.7%
岡山  39 8 31 38 12 1,930 49.5 160.8 1 97.4% 30.8% 79.5%
広島  72 13 59 70 24 2,840 39.4 118.3 2 97.2% 33.3% 81.9%
鳥取  11 5 6 11 4 578 52.5 144.5 0 100.0% 36.4% 54.5%
島根  15 0 15 15 5 702 46.8 140.4 0 100.0% 33.3% 100.0%
山口  30 1 29 30 13 1,420 47.3 109.2 0 100.0% 43.3% 96.7%
徳島  10 2 8 10 5 770 77.0 154.0 0 100.0% 50.0% 80.0%
香川  19 3 16 17 7 985 51.8 140.7 2 89.5% 36.8% 84.2%
愛媛  52 3 49 51 16 1,405 27.0 87.8 1 98.1% 30.8% 94.2%
高知  10 1 9 10 3 745 74.5 248.3 0 100.0% 30.0% 90.0%
福岡  184 15 169 178 56 5,090 27.7 90.9 6 96.7% 30.4% 91.8%
佐賀  20 2 18 19 4 840 42.0 210.0 1 95.0% 20.0% 90.0%
長崎  26 2 24 25 10 1,397 53.7 139.7 1 96.2% 38.5% 92.3%
熊本  50 6 44 48 15 1,801 36.0 120.1 2 96.0% 30.0% 88.0%
大分  25 5 20 21 6 1,178 47.1 196.3 4 84.0% 24.0% 80.0%
宮崎  18 9 9 17 6 1,120 62.2 186.7 1 94.4% 33.3% 50.0%
鹿児島  31 4 27 30 9 1,680 54.2 186.7 1 96.8% 29.0% 87.1%
北海道  114 22 92 111 37 5,431 47.6 146.8 3 97.4% 32.5% 80.7%
沖縄  31 7 24 30 6 1,415 45.6 235.8 1 96.8% 19.4% 77.4%
都道府県人口は総務省統計局による平成25年の集計結果を引用 http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm
日本の最高スクリーン数は1960年の7,457スクリーンで、この年の総人口は93、419(千人)なので1スクリーン当たりの人口は12.527(千人)である。最小スクリーン数は1993年の1,734スクリーンであり、同年の総人口数は124,764(千人)なので1スクリーン当たりの人口は71.95(千人)である。
平成26年の入場者数は161,116(千人)であり、1スクリーン当たり47.89(千人)、興行収入は207,034(百万円)であり、1スクリーン当たり61.54(百万円)である。
公開本数は1,184本であり、邦画615本・洋画569本、興行収入シェアは邦画58.3%、洋画41.7%となっている


 日本の映画興行全盛期は1960 年であり、全国に7,457 スクリーンが稼働していた。このときの総人口が93,419(千人)なので1 スクリーン当たりの人口は12.527(千人)であり、最もスクリーンが減少した1993 年では実に1,734 スクリーンにまで減少し、総人口124,764(千人)であることから1 スクリーン当たりの人口は71.95(千人)と実にピーク時の5.7 倍にまでスクリーン当たりの人口が増加しており、全国の映画館に閑古鳥が鳴いていた厳しい状況がうかがえる。

 平成26 年の入場者数は161,116(千人) であり、1 スクリーン当たりの入場者数は47.89(千人)、総興行収入は207,034(百万円)であり、1 スクリーン当たりの平均興行収入は61.54(百万円)である。単純に考えれば、年間4 万7 千人の集客で6 千154 万円のチケット売上があることになり、チケット売上の映画館側への分配率が4 割とすれば約2400 万円の収入となる。一般的に、映画館はチケット売上金額の3 割程度に相当する金額を売店で売り上げており、この売店売上の利益が映画館収益の5 割以上となっていることが知られている。
表2 スクリーン平均人口の少ない都道府県トップ10
  スクリーン数 人口(1,000人) スクリーン平均人口(1,000人)
山形  56 1,141 20.4
石川  54 1,159 21.5
福井  31 795 25.6
愛媛  52 1,405 27.0
福岡  184 5,090 27.7
愛知  258 7,443 28.8
青森  44 1,335 30.3
千葉  199 6,192 31.1
三重  58 1,833 31.6
群馬  62 1,984 32.0

表3 スクリーン平均人口の多い都道府県トップ10
  スクリーン数 人口(1,000人) スクリーン平均人口(1,000人)
徳島  10 770 77.0
福島  26 1,946 74.8
高知  10 745 74.5
宮崎  18 1,120 62.2
山梨  14 847 60.5
奈良  25 1,383 55.3
鹿児島  31 1,680 54.2
長崎  26 1,397 53.7
鳥取  11 578 52.5
香川  19 985 51.8


 表2 はスクリーン当たりの人口を解析した結果であり、最も平均人口の少ないのは山形県であり、1 スクリーン当たり2 万人の人口でしかない。以下、石川・福井・愛媛・福岡・愛知が3 万人以下となっている。一方で、スクリーン当たりの平均人口の多いのは徳島県であり、実に1 スクリーン当たり7 万7 千人となっており、日本映画興行市場が最も衰退した1993 年の1 スクリーン当たりの人口密度を上回っている。逆に言えば、映画館の新規立地に最も適している都道府県と言える。以下、福島・高知が7 万人台であり、宮崎・山梨が6 万人台となっている。最もスクリーン当たりの人口密度が少ない山形と、徳島では実に3.5倍の格差があり、ショッピングセンター併設型シネコンのビジネスモデルが原因なのか、映画興行市場全盛期の国鉄急行停車駅には大手映画会社の直営館が軒を並べていたときとの格差は非常に大きいものがある。
表4 非デジタルスクリーンの多い都道府県トップ10
  スクリーン総数 デジタル設備 非デジタルスクリーン
東京  335 323 12
大阪  204 194 10
愛知  258 250 8
長野  65 59 6
福岡  184 178 6
神奈川  218 213 5
茨城  91 86 5
大分  25 21 4
兵庫  117 113 4
静岡  98 94 4

表5 デジタル化率の低い都道府県トップ10
  スクリーン総数 デジタル設備 デジタル化率
大分  25 21 84.0%
香川  19 17 89.5%
秋田  21 19 90.5%
長野  65 59 90.8%
山梨  14 13 92.9%
青森  44 41 93.2%
宮崎  18 17 94.4%
茨城  91 86 94.5%
岐阜  56 53 94.6%
三重  58 55 94.8%




 さて、デジタル化の進捗率も97%となっており、昨年末でわずかに102 スクリーンが国内に残っているだけである。この非デジタルスクリーン数が最も多いのは東京都であり12 スクリーンが残っている。続いて大阪・愛知と大都市を抱える都道府県が続くが長野県が総スクリーン数が65しか無いのに6 スクリーンがデジタルに移行できていない。同様に、県内で25 スクリーンしか無い大分県でも4 スクリーンがデジタルに移行できていない。表5 にはデジタル化率の低い都道府県トップ10 を集計しているがやはり大分・香川の80%台を筆頭に地方でのデジタル化進捗率の低さ
が気にかかるところである。欧州では各国の映画振興委員会が主導して国策としてデジタル化を推進している国が多く、本年7月号の連載記事で欧州各国でのデジタル化進捗率を含めて詳細に紹介しているので参照いただきたい。(http://digitallooklab.web.fc2.com/index.files/eu-cinema.html) 
 大都市圏でのいわゆる独立プロダクション作品や海外作品専門で上映を行うアートハウス系映画館の存続は新人映画監督のデビューには必須であるが、大手配給会社相手にしか成立しないVPF モデルによるデジタル投資資金回収の枠組みからは外されてしまう問題がある。海外の大手映画館チェーンでは大都市部の旗艦スクリーンにRGBレーザー光源を装備した4K プロジェクターを設置して差別化を図る動きが顕著であるが、NEC は青色レーザーと黄色蛍光体を使用したDCI 準拠低価格レーザープロジェクターを市場に投入しており、China 市場の地方都市や米国の単館映画館に売り込

みをかけている。インドではセキュリティーを強化したMPEG コーディックによるE-Cinema チェーンも展開されており、旧来の2 番館・3 番館に相当する低価格プロジェクターによるE-Cinema チェーンの展開も日本の地方都市やアートハウス系映画館の存続には必要である、
表6 3D比率の少ない都道府県トップ10
  スクリーン総数 3Dスクリーン 3D比率
沖縄  31 6 19.4%
佐賀  20 4 20.0%
山梨  14 3 21.4%
大分  25 6 24.0%
和歌山  30 8 26.7%
栃木  57 16 28.1%
秋田  21 6 28.6%
鹿児島  31 9 29.0%
群馬  62 18 29.0%
京都  75 22 29.3%

表7 3D比率の多い都道府県トップ10
  スクリーン総数 3Dスクリーン 3D比率
徳島  10 5 50.0%
福井  31 14 45.2%
山口  30 13 43.3%
青森  44 18 40.9%
奈良  25 10 40.0%
岩手  25 10 40.0%
滋賀  38 15 39.5%
長崎  26 10 38.5%
福島  26 10 38.5%
香川  19 7 36.8%



 さて、日本全体での3D スクリーンは全体の32.9%であり、1,106 スクリーンに到達している。この3D 比率は欧州や米国に比べると10%近く低い値であり、まだまだ増加する余地がありそうである。ロシアとChina でRealD 社の光利用効率を改善した偏光上映システムの特許が無効であるとの判決が続いたために、後発のマスターイメージ社やDepthQ 社などのメーカーがライセンス料のいらない光利用効率改善型偏光上映システムを拡販しており、ロシア・China そして南米を主体に3D スクリーンの新設はまだまだつづきそうである。特にスター・ウォーズ等に代表される大型作品の封切り時には3D スクリーン数の多寡でチケット売上が大きく異なり、合わせてドル箱の売店収入にも響いてくることになる。

 表6 は、3D スクリーン導入比率の少ない都道府県トップ10 であり、沖縄が19.4%、佐賀が20%と、山梨が21.4%ときわめて3D スクリーンの導入比率が少なくなっている。1 カ所のシネコンで1 スクリーのみ3D 対応としていればこの程度の3D 設置率となるが、大型3D 作品が封切られた場合には利益機会の損失となってしまう。
 表7 には3D 比率の多い都道府県トップ10 を示しているが徳島はスクリーン総数が10 スクリーンでしか無いのに3D 比率50%ときわめて高い比率となっており、福井・山口・青森・奈良・岩手も40%を越える3D 比率となっており、大型3D 作品の封切り時にはチケット売上への大いなる貢献が期待できるスクリーン構成である。

表8 3Dスクリーン平均人口の少ない都道府県トップ10
  3Dスクリーン 人口(1,000人) 3D平均人口
福井  14 795 56.8
山形  20 1,141 57.1
石川  18 1,159 64.4
青森  18 1,335 74.2
愛媛  16 1,405 87.8
愛知  84 7,443 88.6
福岡  56 5,090 90.9
滋賀  15 1,416 94.4
千葉  65 6,192 95.3
長野  22 2,122 96.5

表9 3Dスクリーン平均人口の多い都道府県トップ10
  3Dスクリーン 人口(1,000人) 3D平均人口
山梨  3 847 282.3
高知  3 745 248.3
沖縄  6 1,415 235.8
佐賀  4 840 210.0
大分  6 1,178 196.3
福島  10 1,946 194.6
宮崎  6 1,120 186.7
鹿児島  9 1,680 186.7
秋田  6 1,050 175.0
岡山  12 1,930 160.8


 また、3D スクリーン当たりの人口密度では表8 に示しているように福井・山形が3D スクリーン当たり5 万人台の人口密度であり、10 位の長野で1 スクリーン当たり9 万6 千人の人口密度である。表9 に3D スクリーン当たりの人口密度の多い都道府県トップ10 を示しているが山梨は実に1 スクリーン当たり28 万2 千人ときわめて人口密度が高く、言い換えれば3D 難民状態と言える。以下、高知・沖縄・佐賀が1 スクリーン当たり20 万人以上となっており全国平均の11 万5 千人の倍近い人口密度であり、3D 関連設備の販売を行っている関係各位にとっては今後のドル箱市場と言える。


票10 シネコン占有率の少ない都道府県トップ10
  スクリーン構成 シネコン占有率
総数 一般館 シネコン
宮崎  18 9 9 50.0%
福島  26 12 14 53.8%
鳥取  11 5 6 54.5%
福井  31 14 17 54.8%
岩手  25 11 14 56.0%
山梨  14 5 9 64.3%
和歌山  30 10 20 66.7%
兵庫  117 37 80 68.4%
長野  65 20 45 69.2%
東京  335 91 244 72.8%

表11 シネコン占有率の多い都道府県トップ10
  スクリーン構成 シネコン占有率
総数 一般館 シネコン
奈良  25 0 25 100.0%
富山  23 0 23 100.0%
島根  15 0 15 100.0%
埼玉  200 5 195 97.5%
千葉  199 6 193 97.0%
新潟  63 2 61 96.8%
山口  30 1 29 96.7%
石川  54 2 52 96.3%
愛媛  52 3 49 94.2%
神奈川  218 14 204 93.6%



 日本の映画興行市場でシネコンの寡占化は以前から言われているが、デジタル化の進捗に伴いこの傾向はますます進んでおり、スクリーン数でのシネコン占有率は86.5%に達している。表10 に、シネコン占有率の少ない都道府県トップ10 を示しているが、宮崎・福島・鳥取・福井・岩手が50%台となっている。東京は72.8%と、都内にいくらか残っている単館系映画館の存在が反映されている。一方で、表11 に示しているように奈良・富山・島根では100%シネコンスクリーンと成っており、筆者の暮らす神奈川県でも関内などにあった単館映画館が軒並み廃業した影響もあり

93.6%のシネコン占有率となっている。
 本年7 月号にも紹介しているが、英国でのシネコンスクリーン占有率は78%であり、東京都でのシネコン占有率とほぼ同じ水準である。50 万人以上の都市を抱える都道府県では70%のシネコン占有率であってくれれば新人映画監督作品や海外作品の鑑賞機会も確実に増えてくると考えられ、日本映画振興のためにも日本版E-Cinemaのビジネスモデル構築が必要であろう。

表12 China2011-2015年1-6月期新設映画館数とスクリーン数増加率
年度 新設           映画館数 新設           スクリーン数 スクリーン    増加率
2011 403 1,669 100.1
2012 369 1,819 9.0
2013 421 2,032 11.7
2014 524 2,616 28.7
2015 600 2,449 -6.4
2015年6月末で総スクリーン数は26,244
資料出所 "China Cinema Groth Slow Dramatically", Patrick von Sychowski, August 3, 2015, Celluloid Junkie
表13 China2015年1-6月での動向
  新設          映画館数 新設                   スクリーン数 映画館数 増減率 スクリーン数増減率
1月 126 567 - -
2月 128 564 101.6% 99.5%
3月 100 384 78.1% 68.1%
4月 84 351 84.0% 91.4%
5月 83 301 98.8% 85.8%
6月 79 342 95.2% 113.6%
資料出所 EBOT芝音EntGroupInc www.entgroup.com.cn



 さて、世界の映画興行関連ニュースを勢力的に配信しているセルロイドジャンキーで今月になって配信されたChina 映画興行市場の急激な減速について紹介しよう。表12 が2011 年から2015 年の各上半期における新設映画館数と新設スクリーン数の一覧表であり、2014 年では対前年比で28.7%もの新設スクリーン数増加が報告されているが、今年上半期はマイナス6.4%の急減速となっている。なお、本年6 月末でChina 映画興行市場の総スクリーン数が2 万6 千に達しており、米国・カナダに肉薄する映画興行大国となっている。
 表13 には各月の新設映画館数と新設スクリーン数の詳細が示されているが3 月移行の急減速が顕著である。地方の省や県単位での過剰な不動産投資に対する投資抑制の影響であるが、先月からの上海株式市場の続落も含めてChina における映画館新設ラッシュが終焉したと考えるのが妥当であろう。 

表14 2021年までのドイツ連邦映画関連市場予測(100万ユーロ)
  2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
映画 1.023 951 1.029 982 962 944 934 926 919
パッケージ 736 688 649 603 559 525 494 466 443
 DVD 524 469 413 348 282 226 179 145 115
  ブルーレイ 212 220 236 255 277 299 315 322 328
  販売 607 604 578 547 517 494 472 451 434
  レンタル 129 85 71 56 42 31 22 15 9
デジタル 93 117 146 183 222 267 316 364 407
  有料放送  31 34 38 41 44 47 50 53 57
  都度課金型有料視聴 41 45 49 51 53 55 57 58 59
  定額課金型有料視聴 20 37 60 91 125 165 209 253 291
国内配給 49 70 90 115 143 175 212 250 285
海外配給 44 47 56 68 79 91 104 114 122
公共放送 224 224 224 224 224 224 213 202 192
民間無料放送 3.284 3.325 3.347 3.445 3.393 3.591 3.642 3.691 3.749
民間有料放送  598 653 673 645 626 619 599 598 597
民間ネットテレビ 204 288 356 465 603 688 775 868 963
総合計 6.163 6.246 6.424 6.546 6.59 6.857 6.972 7.114 7.269
Tabelle 4: Entwicklung Bemessungsgrundlagen 2013 bis 2021 in Mio. Euro
Quelle: PwC Analyse nach Daten von FFA, GfK, Goldmedia
Evaluierungsbericht zur Entwicklung des Abgabeaufkommens vor dem Hintergrund der wirtschaftlichen Situation des Filmmarktes in Deutschland
ドイツ連邦映画振興委員会年報 30,June,20150



 表14 はドイツ連邦映画振興委員会が2021 年までの映画関連市場を予測したデータである。この市場予測で重要なのは映像メディア全体の市場の中で、着実に市場を拡大すると予測されているのは定額課金型のデジタルメディアであり、2015 年が6 千万ユーロの市場規模であるのに対して2021 年には2 億9 千万ユーロまで市場規模が拡大すると予測している。一方で映画興行市場は2015 年が10 億2 千9百万ユーロであるが、2021 年では9 億1千9 百万ユーロまで市場が縮小すると予測している。同様に市場が縮小していくのはパッケージメディアであり、2015 年の6億4 千9 百万ユーロが2021 年には4 億4 千3 百万ユーロまで市場が縮小する予測である。放送系メディアでは公共放送の市場規模も縮小傾向であり民間無料放送とネットテレビが微増傾向と予測している。

 日本の映画興行市場も、今後の市場規模拡大については望むべくも無いがどこに行っても同じような上映作品しか並んでいないいわゆるシネコンスタイルから脱却する必要があることは言うまでも無い。デジタルシネマ黎明期には、英国の映画振興委員会が助成金を出して自国映画と欧州作品の上映比率を過半数として契約するスクリーンに対して年間50 万円を給付した振興策も行われたことがある。米国では同じ商圏内の他社シネコンと差別化するために、IMAX、プレミア大画面、4DX 等のスクリーン多様化戦略と地域特性に合わせたレストランシアターへの改装等が勢力的に行わ
れている。日本でもプレミア大画面を唄ったシネコンチェーンが出始めているが、興行チェーンとしての上映品質管理、独自の番組編成、ファンクラブ会員への特別プログラム等まだまだ改善の余地はありそうである。
 
 さて、ハリウッドの情報誌であるフィルムジャーナル4 月17 日号に掲載されたIHS テクノロジー映画部門主席アナリストのデイビッド・ハンコック氏の記事“Advancing the Cinema : Theatres
reinforce premium status to ensure their future” (http://www.filmjournal.com/features/advancing-cinematheatres-reinforce-premium-statusensure-their-future) を要約する形で、
世界の映画興行界の現状と展望を紹介させていただく。ハンコック氏は、長年スクリーンダイジェスト社で映画関連業界のアナリストを務めており、同社がIHS テクノロジーに吸収された後も世界の映画興行市場に精通したアナリストとして著名である。
 2014 年末に世界のd-cinema(DCI準拠の上映システム) は12 万8 千スクリーンであり、インドで普及しているe-cinema(DCI 準拠ではないデジタル上映システム)は4 千スクリーンに達して
おり、世界の映画スクリーンの93%がデジタル化されている。この状況下で、新規テクノロジーの開発が加速しており、視覚効果ではレーザー光源の登場による3D 上映時の高輝度化と、より明暗のダイナミックレンジを拡大できるHigh DynamicRange(HDR)技術の登場がある。ドルビーが3D 上映でレーザーによる6 原色投射と4K-DLP プロジェクターによるHDR上映を開発した。シルバースクリーンでは無く、狭帯域6 バンドアナグリフのパッシブグラスの弱点であった光利用効率の低さを根本的に解決する6 原色投影であり、ドルビービジョンとしてIMAX に変わるプレミア大画面上映システムとして期待されている。全世界で70 を越える映画興行チェーンが様々なプレミア大画面上映システムを展開しており、映画館でしか体験できない高精細・高画質・高音質の次世代映像体験を目指している。
 また、座席を揺動させる4D シートも急成長しており、韓国のCJ が開発したCJ-4D は米国でも2400 スクリーンに導入されるなど市場を急拡大させている。新規増設スクリーンの50.8%は3D 対応となっているが、この4D シートの採用も相次いでいる。
 レーザー光源は、バルコ・クリスティ、IMAX がRGB 三原色及び6 原色の大画面用レーザー光源システムを投入しており、プレミア大画面上映システムの市場を狙っており、NEC は青色レーザーで黄色蛍光体を励起させる小規模スクリーン向けの低価格機種を投入し全世界で200 台の納入実績をあげている。なお、米国NEC ではこのレーザープロジェクター導入の資金援助プログラムも立ち上げており単館映画館市場を視野にいれた営業活動を行っている。
 IMAX は2015 年度にChina と米国を主体に63 スクリーンの展開を計画しており、バルコはお膝元であるベルギーのキネポリス、米国のシネマークに納入を計画しており、クリスティーはドルビーと提携する形で今後の展開を図っている。
 デジタル立体音響についてはドルビーATMOS が900 スクリーン、バルコAuroが550 スクリーン等となっているがDTSの提案するオブジェクト指向型デジタル立体音響では従来のサラウンドでは無くシーンに合わせて複数の音が映画館の空間を自由に移動する新方式の提案も行っており、規格化の動向や導入コストも含めてここ数年は主導権争いが続きそうである。
 家庭での視聴が4K/8K 等の高精細化と60 インチを越える大画面化が家庭に普及する中で、映画館での視聴が家庭では体験できない感動に溢れるものであり続けるためにも新技術の導入やプレミア大画面上映の展開が必須であろう。
 この大画面シネマの動向については本年2 月号の連載記事で紹介しており、詳細について筆者の過去記事URL:(http://digitallooklab.web.fc2.com/index.files/lpf.htm)で閲覧できるのでご参考まで。
 
Ichiro Kawakami
デジタル・ルック・ラボ

 

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