映画業界を巡る話題

                       デジタルルックラボ 川上 一郎

 本稿は(株)ユニワールド発行の月刊FDI 2015年4月号に連載した記事をWEB閲覧用に筆者が再編集したものである。

今月号では、米国映画制作者連盟(MPAA: http://www.mpaa.org/ ) が発表した2014 年度映画興行レポートの内容を解説していくとともに、そしてここ数年の間は飽和状態となって閉塞感の漂っている米国映画興行市場の現状について解析する。そして、長年の間“二桁は違うのでは!?”と言われていたハリウッド映画制作関係者の年収についてハリウッドの業界紙であるHollywoodrepoter.com が“HollywoodSalaries Revealed, From Movie Starsto Agents”と題して発表したレポートの話題を解説する。
 さてMPAA は、ハリウッド主要スタジオ6 社(ディズニー、パラマウント、ソニーピクチャー、20 世紀フォックス、ユニバーサル、ワーナーブラザーズ)による業界団体であり、実質的にメジャーと同様な新作を配給しているニューラインシネマやドリームワークス等はメンバーでは無い。日本の映画制作者を代表する日本映画制作者連盟が松竹・東宝・東映・株式会社KADOKAWA で構成されているのと同じ業界事情と言える。

 


 2014 年度の映画興行市場は、低迷する北米市場をアジア地域(特に中国)の興行売上が補完して押し上げたとの一言である。図1 に示しているように、2010 年には全世界の映画興行売上の66%が北米地域以外の売上であったのが、2014 年度では72%にまで上昇している。図2 に示しているように、欧州地域はEU 加盟国での経済不安や政治的不安も重なり映画興行売上は飽和状態から脱却できずにいる。同様に、成長が見込まれていた中南米地域も政治・経済両面の問題からデジタル移行後の映画興行市場の停滞が続いている。アジア・太平洋地域では、中華人民共和国(以下China と記す)が、外国映画上映枠の拡大(現在30 作品。日本作品については共産党首脳部のさじ加減次第であり、全く期待できない)とデジタル化促進に加えて映画館側への興行売上分配率優遇政策もあり映画興行売上が増大している

 

 


 China での映画興行市場については公式発表値で4.82 ビリオンドルとなっているが実態としては5.3 ビリオンドルではとの3 月12 日付セルロイドジャンキー記事( http://celluloidjunkie.com/2015/03/12/endemic-boxoffice-fraud-china/#more-7587)もあり、チケット販売時点での組織的な売上金額搾取が行われているのではとの報道もされている。また、ネットでのチケット販売システムがハッキングされて大量の映画チケットが搾取されたとの後追い報道もあり実態の興行売上については不明な点が多々ある現状である。

図3 に示しているように、世界各国での映画興行売上で首位の北米地域(米国・カナダ)が10.4 ビリオンドル(1 $=110 円換算で1 兆1,440 億円)、第2位がChina で4.8 ビリオンドル(同様に5,280 億円)、第3 位が日本で2 ビリオンドル(同様に2,200 億円)となっている。以下、フランス、英国、インド、韓国、ドイツ、ロシア、オーストラリアの順となり以上の国で世界の映画興行売上総額の75%となる。

 

 

 

米国・カナダ地域での映画興行チェーン上位10 社は全米映画興行組合(NationalAssociations of Theatre Owners:http://natoonline.org/ ) の2013 年7月集計によると、第1 位:リーガル・エンターテインメント・グループ(Regal Entertainment Group, 7,318 Screens,574 Sites)、第2 位:AMC エンターテインメント(AMC Entertainment Inc.,4,988 Screens. 344 Sites)、第3 位:シネマーク USA(Cinemark USA Inc.,4,434 Screens, 332 Sites)、第4 位:カーマイク シネマズ(Carmike CinemasInc., 2,476 Screens, 249 Sites)、第5位: シネプレックス エンターテインメント(CineplexEntertainment LP,1,672 Screens,136 Sites)、第6 位:マーカス シアターズ(MarcusTheatres Corp,687 Screens, 55Sites)、第7 位:ホーキンズ シアターズ(Harkins Theatres, 440 Screens,31 Sites)、 第8 位:ナショナル アミューズメント(National Amusements, 423Screens, 32 Sites)、第9 位: ボータイ シネマズ(Bow Tie Cinemas, 388Screens, 63 Sites)、第10 位:ジョージア シアター(Georgia Theatre Company,326 Screens, 32 Sites) となっている。
第2 位のAMC は中国の映画興行グループであるワンダに買収されており、第4 位のカーマイクも原稿執筆時点で買収先を探しているとの報道が流れており、英国の老舗映画興行チェーンであるオデオングループの買収先探し報道と併せて閉塞感のある欧米興行チェーンの動向については目が離せない状況である。

 

 

図4 には、地域別映画スクリーン種別をしめしており、北米地域ではわずかに1,747 スクリーンがフィルム上映としてカウントされているが北米地域でのメジャースタジオによるフィルム撮影は終了し、インディペンド系でのフィルムによる撮影も対応可能な現像所がフォトケムのみとなっていることからコスト的にフィルム配給は絶望的である。EMEA(欧州・中近東・アフリカ)地域ではギリシアや東欧地域主体で3,504 スクリーンがアナログ対応のみとなっているが、北米地域と同様に新作の配給は全く望めないことから手持ちの配給済みプリントに依存して上映する以外に手段は無い状況である。アジア・太平洋地域でもChina は全面デジタル化されており、インドも昨年度中にデジタル移行が完了しており、アジア地域での後進国を主体にした3,000 スクリーン程度しか残っていないと推定される。ラテンアメリカ地域でも1,523 スクリーンがアナログスクリーンとして残っている状況であるが、新作の配給が止まっている状況では大半が今年度中に
閉館となると考えられる。従って、来年以降に全世界でアナログ上映しかできない映画スクリーンは多くても3,000 スクリーン、先進国では500 スクリーン程度がストックされたプリントフィルムを頼りにして上映を行う状況となると筆者は考えている。

 

 

図5 に示しているように、2014 年度末で127,689 スクリーンにまでデジタルスクリーンは増加しており、各種統計で数値は異なるものの14 万スクリーン前後と推定される全世界の映画スクリーンのデジタル化進捗率は90%越えとなり、今後の話題は第一世代デジタルシネマ機器の更新費用問題、客席稼働率向上対策としての4K対応や次世代デジタルサラウンド対応となってくる。
 特に、北米地域では中小都市の単館映画館や、ドライブインシアター等へのデジタル化支援ファンドを業界としてどのように取り組むのかは大きな問題である。NATO の中小映画館向け共同購入組織が独自のVPF 枠組み設立などに動いた時期もあったがその後の展開については不明であり、日本と同様に地域特性による映画鑑賞機会の逸失についてMPAA や日映連などの映画制作者団体が政府に対する積極的な提言を行っているとは感じられない。

 

 

日本では、テレビメーカーを主体にした空騒ぎ的な3D ブームの後は“見て見ないふり”モードと成っている3D 映画であるが、図6 に示しているように全世界で64,905 スクリーンが3D 上映対応となっている。平均客席数が300 席とすれば一回の上映で約1950 万人が鑑賞できることになり、ハリウッドでも年間50 本近くの3D 作品が配給されており、映画作品の一ジャンルとして定着していると言える。アジア・太平洋地域での3D 対応スクリーンの急増はChina の新設デジタルスクリーンの大半が3D であることが大きな要因であるが、北米地域での3D 上映システムをほぼ独占してきたRealD 社も会社売却の噂が流れるなど今後の3D 上映システム市場も主役となる上映方式がどうなるのかは興味深いところである。この3D 上映システムに揺動型座席や臨場感演出効果(風、立体音響、香り等)を付加した4DX 映画スクリーンはきわめて高い客席稼働率を上げている。特に揺動型座席は、デジタルシネマ配給パッケージの音響チャンネルの予備に付加効果用の空きチャンネルがあらかじめ設定されていたことからフレーム同期での体感効果信号が組み込めたことが大きな要因である。なお、立体音響については数社の立体音響システムが音響空間の定義やチャンネル割り当てについての互換性が無く、さらに配給パッケージからのメタデータ展開時のエラー問題に対するリカバリー情報のサポート不足等の現場対応に対する問題が聞こえてきている。さらに、スクリーン毎に音響特性が異なる現状で、マスターとして立体音場を定義するときの環境要因明確化、付加コストに対する費用分担、はたまた映画作品としての演出効果と集客に対する費用対効果を考えると筆者としては70mm シネラマスクリーンのような大画面+立体音響としての大型作品限定としての次世代上映システムとしては存在価値があるが汎用性については疑問を感じるところである。

 

 図7 には、北米地域での観客動員数と人口当たりの年間鑑賞回数推移を示しているが、最近の観客動員数減少が顕著である。リーマンショック以前には国民一人当たり年間4 回以上の映画鑑賞回数であったのが昨年度はついに3.7 回となってしまっている。日本の昨年度映画館入場人員は1 億6,111 万6 千人であり、総務省統計局の平成26 年10 月確定値による総人口1 億2,691 万人から計算すると国民一人当たり1.27 回の鑑賞回数からすると、さすが映画大国の米国!となる。
 さて、欧州での映画興行市場についてはイタリアのメディアセールス社が2 月7 日に報道発表した資料( http://www.mediasalles.it/ybk2015/berlin/pr.htm)を基にして概況を紹介する。ウクライナ情勢や、ギリシアの金融危機などを背景にして主要国の映画興行売上は減少したものの、全体としては+1.3%の成長となっており、欧州全域でのデジタル化進捗率も91%に達している。
 欧州最大の映画興行市場である英国は興行売上の落ち込みが顕著であり-4.9%の低下となり、同国の老舗映画興行チェーンであるオデオンも売却先を探している厳しい状況となっている。フランス(+7.7%)・スペイン(+13.6%)以外の14 か国はいずれも興行売上低下の厳しい状況となった。東ヨーロッパやロシア周辺国ではリトアニアが+37.5%、セルビア+24.8%等と好調であり、経済制裁の続くロシアが-1.1%と低下し、政情不安となっている周辺国では20%の売上低下となっている国も出てきている。
 2014 年初めには31,097 スクリーンで84%のデジタル化進捗率であったのが、年末には33,881 スクリーンにまで増加し91%のデジタル化進捗率となった。デジタル化の遅れているトルコ・ギリシア・エストニアなどを主体にして約3,000 スクリーンがアナログ対応のままとなっている。
 ただし、映画館経営者にとっては観客動員数の減少は真綿で首を絞められる状況であることは言うまでも無い。数年前からハリウッドのいわゆるB 級映画と称されるメジャースタジオ子会社による制作予算が10 ~ 20 億程度の中型作品配給本数が減少していることは以前の連載記事でも紹介しているが、最近になって平日の昼間は稼働していないスクリーンが増えているとの情報があったので米国での代表的な映画館での上映番組編成を改めて調査した結果を報告する。

 

 

 番組構成表1 と2 は、JR 川崎駅を挟む形で競合する109 シネマチェーンでショッピングモール内に立地する109 シネマ川崎と独立系シネコンのチネチッタ両館の3 月5 日木曜日、3 月7 日土曜日の上映番組構成である。109 シネマ川崎はショッピングモール内に立地し、シネコン型IMAXスクリーンも設置している10 スクリーン構成であるが平日の木曜日でも17 作品、土曜日にはライブ上映やODS 作品の上映も踏まえて30 作品(番組構成表では同一作品での3D 上映等は同一番号で表示)累計54 回上映となっている。
 
 独立系シネコンのチネチッタは12 スクリーン構成であり、平日の木曜日でも30作品累計65 回上映を、土曜日には29 作品累計81 回の上映を朝九時から早朝3 時まで行っておりショッピングモール内に立地している109 シネマ川崎とは異なる営業時間構成の自由度がうかがえる。両館ともに平日・土曜日ともに営業可能時間範囲内で最大限の番組編成を行っていることがうかがえる。またチネチッタは欧州やインド映画等の作品も幅広く上映しており、大手映画館チェーンとは異なる独自の番組構成を行うことで知られている。
 さて米国の主要映画館での番組構成はいかがであろうか。前述の日本の映画館番組構成には上映スクリーン番号が明記されているが、この後に紹介する米国映画館の番組構成にはスクリーン番号が明記されていないので、上映開始時間・作品上映時間と入れ替え等の時間を筆者が加味して配置していることを了解いただきたい。

 

 

 

 

 番組構成表3 で紹介しているのはニューヨーク最大の繁華街であるマンハッタンの中心部ブロードウェイに立地するAMC Empire25 の上映番組構成である。IMAXを含む25 スクリーンのマルチプレックスであり3 月5 日木曜日は30 作品累計97回の上映を朝11 時から深夜24 時まで行っている。3 月7 日土曜日には23 作品累計116 回の上映を朝10 時から深夜2 時過ぎ迄行っている。特徴的なのは平日の上映ではAMC チェーンが独自に上映する独立系作品を半数近く採用しており、週末にはメジャースタジオ配給作品主体に集中上映するスタイルを取っているところである。この映画館は観客動員数が頭打ちとなっている米国映画興行市場の中でも増収を達成したAMC グループの旗艦映画館であり、番組構成を含めて都市型映画館の方向性を考えるときに重要である。

 

 

 

 番組構成表4 で紹介しているのはAMCグループが注力している客単価向上策の切り札と言えるレストラン型シアターである“Dine-In”シアターである。ロサンゼルス空港に近い世界最大級のヨットハーバーがあるマリーナ・デルレイ地区にあった映画館を改装して食事と飲み物を楽しみながら映画を鑑賞する興行形態である。平日は8作品累計20 回の上映を行っており、週末は6 作品累計26 回の上映とゆったりとした番組編成である。メニュー構成も前菜が11 種類($7.99 ~ $13.49)、スナックタイプの肉と魚が4 種類($12.49)、バーガーが4 種類($10.29 ~ $12.99)、クサディーヤとタコスが5 種類($10.49~ $11.99)、サンドイッチが4 種類($10.99)、ピザが3 種類($9.99 ~$10.99)、サラダが4 種類($9.99 ~11.49)、メインが6 種類($11.99 ~$16.29)、子供向けが4 種類($7.49)、そして米国の食事で欠かせないデザートが4 種類($6.49 ~ $7.99)、ビールとワイン、マティーニとマルガリータ等のカクテルサービスも充実している(残念ながらアルコール類の価格はネットに掲載されていない)。この“Dine-In”シアターでの平均客単価は確実にコーラとポップコーンの客層よりは数倍から10 倍程度高くなると考えられるが、ハリウッドの映画産業関連ス
タッフでもマリーナ・デルレイにクルーザーを所有して居住しているのはエンドロールのスタッフクレジット上位に名前を連ねている成功者に限られてくる。

 

 番組構成表5 は、ロサンゼルスの海岸沿いにあるサンタモニカの3rd ストリートにあるプロムナードに立地する4 スクリーン構成のAMC Lowes Broadway の上映番組である。平日は8 作品累計20 回の上映で、週末は封切4 作品累計21 回の上映となっている。このサンタモニカ3rd ストリートはカジュアルファッション系の人気店が林立し大道芸も常時行われており、昔日の銀座通りに立地する映画館を彷彿とさせる興行スタイルである。 
 さて、西海岸を主体にした独立系映画館チェーンでもシネラマドームを有するアークライトシネマでは興行形態の様相が異なってくる。

 

 

 番組構成表6 は、ドルビーシアターやチャイニーズシアターが並ぶハリウッド・ハイランド駅の隣駅であるハリウッド・バイン駅から海岸線に向かってサンセット大通りまで下った場所に立地するArc Light CinemaTheatre Hollywood の上映番組である。4K-DLP プロジェクター2 台によるドームスクリーンを含む15 スクリーン構成のアークライトシネマの3 月5 日木曜日は18時30 分からの上映開始であり、平日の昼間は全館上映を行っていない。週末の土曜日には10 時から深夜まで18 作品累計76 回の上映を行っており、木曜日の15作品累計28 回の上映とは全く異なっている。リーマンショック以前に、この映画館を平日の午後に訪れたときには大半のスクリーンで上映を行っていたが、筆者が鑑賞した先週封切りされたばかりの作品は700席のドームスクリーンに観客は二人であったことが思い出される。

 

 


 ロサンゼルス郊外のパサデナは物理化学関係のノーベル賞受賞者が多数在籍する米国屈指の理工系大学であるカルフォルニア工科大学やNASA のジェット推進研究所が立地し、オールドパサデナの商店街などがある落ち着いた町並みである。番組構成表7 は、このパサデナに立地するアークライトシネマの上映番組であり、平日は17:40から13 作品で累計32 回の上映となっており、週末は朝10 時から15 作品で累計84 回の上映となっている。
 ここ数年、平日の昼間には何割かのスクリーンで全く上映を行っていないシネコンが目立ってきているのは以前の連載でも紹介したが、ハリウッドメジャーの子会社によるB 級ハリウッド作品の配給本数が激減したことから、既存のメジャー主体の映画配給に依存している場合には上映したくても作品が無い状態があることは確かである。かといって独立系プロダクションの作品については興行契約の仲介を含めて諸般の手続きが面倒な一面があることは致し方ない。その点では、AMC が旗艦映画館であるマンハッタンの映画館で平日の昼間にAMCインディペンデントと題して独立系作品を集中上映し、観客動員の見込める作品は一挙に配給スクリーンを増やす戦略はきわめて優れた営業手法だと感じている。

 
 さて、番組構成表8 はハリウッドの主要スタジオやポストプロダクションが集積するバーバンクに立地するAMC バーバンク16 の上映番組である。デジタルシネマ黎明期のデジタルプロジェクター試写や、各種3D 上映システムの関係者向け試写、そしてレーザー光源プロジェクターによるスクリーンも設置されており、画質に関連する試写が頻繁に行われている映画館としても有名である。平日でも16 作品で累計78 回の上映であり、週末には封切り作品を主体に11 作品で累計78 回の上映となっている。AMC プライムと銘打った立体音響を強化した旗艦スクリーンでの上映、IMAX に3D と多様な上映形態が選択でき、かつハリウッド関係者からの口コミが瞬時に広がる場所柄であることから、この映画館での画質についての評判は気にかかるところである。

 

 さて、ハリウッドの業界紙であるHollywood.com に掲載されたハリウッド関係者の年収についての記事は従来のハリウッドスターの年収だけでは無く、制作関係者の年収についても網羅しており、非常に興味深い内容であった。
 銀幕のスターについてはアイアンマン3で主演したロバート・ダウニー・ジュニアが$75 ミリオンドルと封切週の興行売上7%を手にしたと書かれている。大物スターの場合には自ら経営する個人プロダクションが制作者として関与し、出資割合分の興行収益を手にする場合もあり、報道されるスターの報酬についてはどこまでが正確なのかは疑問な部分もある。

 

表1 米国映画関連職種別平均年収
  平均時給 平均年収
俳優 $21.84 $52,226
プロデューサー・演出家 $34.72 $72,210
脚本家・作家 $27.93 $58,080
カメラマン $22.19 $46,150
映画・ビデオ編集者 $27.93 $58,100
映写技師 $9.70 $20,180
映画館・劇場従業員 $8.41 $17,500
資料出所 : 米国労働局労働統計部の職種別雇用統計資料及び2007年3月17日付発表資料「Occupational Employment and Wages、2006」、SAG統計資料

 

 撮影監督についてはハリウッドで10 から15 名のトップランクとなると、週給で2 万5 千ドル~ 3 万ドルとなり、12 週以上の契約が必須とのことであり、このランクに該当する撮影監督は11 回のオスカーノミネートを誇るRoger Deakins、そしてグラビティーの撮影を行ったEmmanuelLubezki と Martin Scirsese 等となっている。制作費が80 ミリオンドルを越える作品では週給1万~2万ドルが相場でありこれより低予算の作品では週給2 千ドル~5 千ドルとなり、テレビドラマの場合には週給5 千ドル~ 8 千ドルが相場と報告されている。
 表1 に示しているのが米国労働局統計部による映画制作関連職種の平均年収であり、映画俳優は時給$21.84 で年収$52,226と報告されている。表2 は、リーマンショック後に俳優組合がストに突入したときのLA タイムスの記事http://www.latimes.com/classified/jobs/news/la-052808-fi-sag-g,0,3566589.graphic)
で掲載された俳優組合の所得分布である。

SAG組合員の所得分布
所得範囲 割合[%]
2、000万以上 2.2
1、000万~2、000万 1.6
500万~1,000万 2.4
281万~500万 3.0
100万~281万 9.7
50万~100万 9.0
100~50万 72.1
2007年度SAG集計値

 

俳優としての所得が年間$5,000 ドル未満の組合員が72.1% であり、年間20 万ドル以上の収入がある組合員は2.2% である。この極端なヒストグラムの分布で平均値が5 万ドルとなるのは、上位1%未満のトップスターが稼いでいるからである。
 表3 は紹介した記事による職種別年収であり、吹き替えの代役(Body Double)で年収363 万円、筆頭助監督で2,112 万円等となっている。この給与水準があるからこそハリウッドを目指して映画関係者が集まるわけであるが、一方では制作費を抑えるために近場ではカナダでの撮影や、オストラリア・ニュージーランドでの長期ロケなどに撮影現場がシフトしてしまう問題がある。次号では映画製作関係者の職歴となる映画作品のエンドロールに流れる各種の職種について考察するとともに米国各州で行われている映画撮影の誘致と収税減免制作の実情について考察を行っていく。

 

表3 米国映画製作関係者の祝種別年収(万円)
ANIMATION DIRECTOR  アニメーション監督 ¥2,200
ART DIRECTOR  美術監督 ¥1,474
ASSISTANT ART DIRECTOR  美術監督助手 ¥1,111
AWARDS SHOW PRODUCER  表彰式演出家 ¥3,300
BEST BOY  照明/セット等のサブチーフ ¥1,012
BODY DOUBLE  吹き替えスタント ¥363
BOOM MIC OPERATOR  ブームマイク操作 ¥957
CHAUFFEUR  専属運転手 ¥616
CAMERA OPERATOR  カメラマン ¥1,056
CARPENTER  大工 ¥671
COSTUME DEPT. SUPERVISOR  衣装顧問 ¥1,001
COSTUMER  衣装 ¥869
CRAFT SERVICES FOREPERSON  大道具窓口 ¥814
DOG HANDLER  犬トレーナー ¥594
DIALECT COACH  方言指導 ¥1,375
EDITOR  編集 ¥1,045
FIRE SAFETY ADVISER  防火技術指導 ¥803
FIRST ASSISTANT DIRECTOR  筆頭助監督 ¥2,112
FOLEY ARTIST  音響効果 ¥968
GAFFER  照明関係電気主任 ¥649
GARDENER (STUDIO)  園芸担当 ¥550
GRIP  照明・撮影機材担当 ¥1,122
HAIRSTYLIST  ヘアスタイリスト ¥847
HAIRSTYLIST TRAINEE  ヘアスタイリスト見習 ¥726
LIGHTING TECHNICIAN (ENTRY-LEVEL)  照明技術者(見習いレベル) ¥583
LOCATION MANAGER  ロケマネージャー ¥1,232
MECHANIC  機械担当 ¥649
MAKEUP ARTIST  メイクアップ ¥1,100
MODEL BUILDER  モデル制作 ¥748
MUSIC MIXER  音楽ミキサー ¥1,221
NOVELIZATION WRITER  ( per book) 脚本執筆(1作当たり) ¥1,375
PAYROLL ACCOUNTANT  賃金支払い ¥726
PERSONAL ASSISTANT FOR A CELEBRITY  セレブ個人秘書 ¥880
PROJECTIONIST (STUDIO)  映写技師(スタジオ) ¥792
PROP MASTER  進行 ¥649
PUBLICIST (STUDIO)  広報 ¥1,023
SCENIC ARTIST  舞台美術 ¥891
SCRIPT SUPERVISOR  脚本指導 ¥682
SCULPTOR  彫刻担当 ¥825
SET DECORATOR  大道具 ¥1,144
SOUND EFFECTS EDITOR  音響効果編集 ¥968
TEACHER (ON-SET)  演技指導 ¥968
TRAILER EDITOR  予告編編集 ¥891
WIGMAKER, CLASS 1  床山(上級) ¥649
WIGMAKER, CLASS 2  床山(中級) ¥759
WILD ANIMAL TRAINER  野生動物トレーナー ¥825

 

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